小泉文夫著 「フィールドワーク」より
いつか皇太子殿下ご夫妻がルーマニアとブルガリアをご訪問になられるというときに、ブルガリアとルーマニアの音楽について教えてほしいということで、美智子妃殿下も皇太子殿下も非常に音楽がお好きですから、私は楽器だのレコードだのいろいろなものを持って参りました。そのときにこの笛を持っていきまして、私はうまく吹けないからレコードを聴いてくださいと、ゲオルゲ・ザンフィルのレコードをテープに入れてお聴きいただいたのです。そうしたら妃殿下はたいそう気にいられて、私の帰りぎわに、もう一度その笛を貸してくださいといわれて、この笛をご自分でちょっとお吹きになったりされて、すっかり気に入られたのです。
そのことがすぐに宮内庁から外務省、外務省からルーマニア大使館、それからルーマニア本
国へと連絡がいっていますから、両陛下がルーマニアにいかれたときには、方々訪問される先々に、この笛の演奏家が待機していまして、殿下がいらっしゃると演奏したわけです。
それで、両殿下がお帰りになりましてから、またパーティでお呼ばれがありまして参りましたときに、皇太子殿下が「妃殿下があの笛を非常に気に入りまして」と話され、そこに妃殿下も出ていらして、輝かしい音楽のときにはすばらしいメロディーになるし、ゆっくりとした音楽になると涙が出てくるとのことでして、そのくらい気に入られた笛なのです。
(1984 冬樹社)